LGBTに関する活動を進めてきた認定NPO法人ReBit。これまでLGBTに特化していたキャリアフォーラム「RAINBOW CROSSING TOKYO」のテーマを、2019年は「LGBT」「ジェンダー」「障害」「エスニシティ」に広げて開催します。なぜテーマを広げたのか、ダイバーシティ全体を取り上げる上での気づきなどを伺いました。
教育現場や行政へ向けたLGBT出張授業や教材開発などの「教育事業」、LGBT当事者・企業・就労支援者の三方へ向けた「キャリア事業」、LGBT成人式の開催や若者のリーダーシッププログラムなど「若者リーダー応援事業」の3事業からLGBTの課題に取り組む認定NPO法人ReBit。そのReBitが毎年開催しているキャリアフォーラム「RAINBOW CROSSING TOKYO」が2019年10月19日(土)に開かれます。
これまではLGBTに特化して開催してきた「RAINBOW CROSSING TOKYO」ですが、今年はテーマを拡大。「LGBT」「ジェンダー」「障害」「エスニシティ」の4テーマを取り上げ、属性・特性にかかわらず「誰もが自分らしく働く」ことについて考えるフォーラムに進化しました。
なぜ、LGBTに関して活動してきたReBitが、今回ダイバーシティ全体へテーマを広げたのでしょうか。イベントを目前に控えたReBitの創設者であり代表理事の藥師実芳さんに、テーマを広げたことによる変化、そしてReBitが目指す社会を伺いました。
笑顔でお話しくださった藥師さん
―― 「RAINBOW CROSSING TOKYO 2019」とは、どんなイベントですか?
藥師:
ダイバーシティに取り組む企業と、学生・就活生・社会人、そしてキャリアセンターや行政などの就労支援者が一同に集うキャリアフォーラムです。
ReBitではキャリア事業として、企業・就活生・就労支援者のそれぞれに研修などのアプローチをしてきました。そこで、実際に就職活動の現場で相互に交わる三者が集まって情報を共有し合う機会として「RAINBOW CROSSING TOKYO」を2016年から毎年開催しています。
昨年まではLGBTに特化していましたが、4回目を迎える2019年はテーマを「LGBT」「ジェンダー」「障害」「エスニシティ」の4つに広げ、「ダイバーシティに関するキャリアフォーラム」としました。私の知る限り、日本初の「ダイバーシティに関するキャリアフォーラム」だと思います。
Webサイトにも「日本初のダイバーシティに関するキャリアフォーラム」と記載されています
―― これまでLGBTをテーマに活動してきたReBitですが、今回なぜテーマを広げたのですか?
藥師:
ReBitのミッションステートメントを2020年に現在の「LGBTを含めたすべての子どもがありのままで大人になれる社会へ」から変え、LGBTのみではなく“ちがい”をもつすべての子どもたちがありのままで大人になれる社会と、目指す社会のスコープを広げようと考えています。今回テーマを広げたのは、その2020年へ向けた一歩です。
私がLGBTについて取り組み初めたのは2009年、当時はLGBTという言葉はあまり知られていなく”新進気鋭の人権課題”と言われたりもしました。そこから10年が経ち今では認知と理解が少しずつではありますが、促進をされています。一方で、LGBTに限らず、世の中には多くの“ちがい”がありますし、でも、それぞれが課題ごとに世間に訴え、その都度対応していたのでは、何度もテーマを変えて理解促進を繰り返さなければなりません。もちろん各テーマの理解促進も重要ですが、それだけでなく、日本社会にそもそもの“ちがい”を受け入れる寛容性を高めたい。将来的に新たな多様性が可視化した時に、そこに対しても寛容に受け入れられる社会にしたいんです。
ただ、知識や経験がなければ、それもただの理想論になってしまいます。だから、団体立ち上げ当初から、最初の10年はLGBTというテーマで課題解決の活動を一通り学び、その後はLGBTを軸にしつつ、様々な課題を横断的に捉えて“ちがい”を受け入れていく文化を醸成する活動をしたいと考えていました。
――ダイバーシティの中でも、なぜ「LGBT」「ジェンダー」「障害」「エスニシティ」の4テーマを今回のイベントで選んだのですか?
藥師:
ダイバーシティに積極的に取り組む企業らにヒアリングをし、主に取り上げていた4軸にしました。ただ、出展企業については、4つのテーマに取り組んでいることよりも、“ちがい”を受け入れるインクルーシブな土壌がある職場かを重視しています。
最初は、特に課題テーマを置かずに「ダイバーシティ&インクルージョン」全体で語りたいという気持ちもありました。ですが、それだと「在宅勤務」や「副業」など多様なテーマがあり、非常に幅広くなります。そうすると、真面目に向き合ってダイバーシティに取り組んでいる企業ほどひとつでも取り組みが進んでいない分野があるとすると「すべてには対応しきれていないので、出られません」となってしまう可能性がある。また来場者も期待していた話が聞けなかったという場合もあるので、双方が参加しやすいようにテーマを設定しました。
webには協賛企業・出展企業を多数掲載。会場には、従業員300名以下の中小企業によるポスターセッションも設けています
――テーマを広げることに対して、企業からはどのような反応がありましたか?
藥師:
企業はLGBT“だけ”を支援しているわけではなく、ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みの一環としてLGBTの課題にも取り組んでいます。だから、「より自社のメッセージに適っている」と言ってくださいました。
一方で、お話に伺った企業の中には「本当にニーズはあるのか」という声もありました。でも、こういった声は今回に限らず、新しいことを始める時に必ず出てくるもの。例えば、LGBTキャリア事業をスタートした時も「弊社にLGBTの就活生なんて一人も来たことがない。きっとニーズがない」という声もいただきました。NPOの役目のひとつは、そこに課題やニーズがあることを可視化することにあると思っているので、ご意見を真摯に受け止めた上で、必要性や重要性を社会に可視化していきたいと考えています。
――実際、来場登録者は、LGBT以外の属性の方もいらっしゃるのでしょうか?
藥師:
はい、参加申し込みの際に任意で自身の特性・属性を教えていただいていますが、非常に多様です。また、一人の中に複数の属性・特性をもっている人もいます。
昨年まではLGBTに特化していましたが、来場者には「ダイバーシティに関する企業説明会がない。LGBTに取り組んでいる企業なら、ダイバーシティへの素地があるかと思って来た」と話す発達障害がある人や、「社員を大事にする職場は自分にとっても働きやすいから」と話す、いわゆる”マジョリティ”の人もいました。だから、テーマを広げてダイバーシティ&インクルージョンを扱うことには、必ずニーズがあると思っていました。
また、LGBTだからといって、LGBTの課題“だけ”に悩んでいるとは限りません。例えば私の場合、トランスジェンダーであり、戸籍上は女性であり、ADHDでもあります。また帰国子女で子どもの頃は日本語があまり話せなかったというマイノリティ性ももっています。同じように、ダブルマイノリティ・トリプルマイノリティである人は、少なくありません。その点でも、テーマをダイバーシティ&インクルージョンに広げたことは、ニーズがあると思います。
――最初は、あくまでLGBTがイベントのメインテーマではないかと思っていましたが、プログラムを見ると4テーマすべてにしっかり時間を割いて扱われていて驚きました。
子育て、留学生、シングルマザー、発達障害、LGBTなどすべての話題に同様の時間を使っている
藥師:
テーマに掲げられていたのに、行ってみたら想定されていなかったら、ガッカリしてしまいますよね。それは、私たち自身がとてもよくわかっていることです。例えば「LGBTフレンドリー」と謳われている場に行ったけれど実態がそうでなかったとしたら、期待していた分「全然想定されてないじゃん!」と失望してしまいます。
だから、できる限り来場者に「自分のことも想定されていた」と思っていただけるイベントにしたいんです。そのためにさまざまな専門家にお力添えいただきました。例えば、LGBT以外の部分は私たちだけでは足りない面もあるので、複数のNPOにアドバイザーとして協力してもらっています。また、当日の会場運営には、福祉職や医療職のスタッフがいたり、多言語対応も進めています。でも、初めての挑戦であるため、想定や準備が足りない部分も出てくると思います。そこはぜひ参加者のみなさんからのご意見をいただき、来年度の改善につなげていきたいです。
――イベントのテーマを広げたことで難しく感じる点はありますか?
藥師:
当日の会場運営をどうしたらいいのかは、悩むことも多いですね。車椅子を利用される方はどうしたら会場を回りやすいのか。聴覚障害の方は手話通訳があればいいかと思ったら、実は難聴や中途失聴の方は手話を使わない方も多い。また、聴覚障害で大きな音でないと聞こえづらい人もいれば、発達障害で大きな音が苦手な人もいます。ダイバーシティ&インクルージョンを進めると、AさんとBさんの利害が相反する場合がある。そこをどう話し合ってどう調整していくのかが、難しい点でもあり、重要なポイントでもあります。
「どんな会場であればみんなOKなんだ?! と、わからなくなります(笑)」
藥師:
その解決方法は、一人ひとりに聞くしかありません。だから、来場登録の時点でリクエストを伺い、イベント中も会場でご意見を伺う。イベント後もフォローアップでご意見を伺う。そして、一つひとつ議論し、できる限りの対応をしていきたいと思っています。また、今回意識した点として「どのような対応があり、どのような対応が追いついていないのか」という情報をフラットに明示することです。
今回のイベントを運営したことで、企業へ対しても、ただ「インクルージョンは大事」ではなく、「こんな難しさがある」「こんな対応がある」という点まで話せるようになることにも意義があります。その意味でも、私たちReBitにとって貴重な経験です。
ダイバーシティ&インクルージョンを進める上で、企業が気をつけるべきポイントを伺いました
――企業説明会や採用の現場で、ダイバーシティ&インクルージョンについて企業はどんなことに注意すべきでしょうか?
藥師:
重要なのは、説明会であれば登壇者、採用の場合は面接官など、対応する人の意識・マインドそのものだと思います。就活生と直接会う社員は、企業を背負ってその場にいるはず。その人たちが、ダイバーシティ&インクルージョンへの意識を持って体現するのは、就活生が安心して話すためにも、そして企業自体のためにも重要です。
意外とふとした言動から、組織の風土やその人の価値観が垣間見えるもの。その場限りの小手先のテクニックは、相手に伝わってしまいます。実際に「第一志望に内定したけど面接官の言動が差別的だったので、別の内定企業を選んだ」という人もいました。だから、日頃からの研修や意識づけが大切です。
また、ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みは採用サイトには掲載されていないことも多いのですが、それだとせっかく取り組みがあっても就活生は気がつけません。インクルーシブな環境の職場を希望する就活生が事前に取り組み内容を確認できるよう、採用ページや企業説明会で情報提供をすることも重要であると考えています。
――藥師さん自身は就活の際、面接官の言動でダイバーシティへの意識の不足を感じる場面はありましたか?
藥師:
トランスジェンダーということで面接開始2分で帰されたこともあったし、最終面接の最後の質問で「藥師さんは、子ども産めるの?」と聞かれたこともあります。
もしかしたら、その最終面接で質問した人は単に疑問に思って、悪気なく聞いただけかもしれません。でも、誰に対してであれ、生殖能力を面接で問う必要はありませんし、往々にしてハラスメントにあたります。そういったハラスメントが意識なく生まれてしまう状態が、残念ながらまだある。
また、大学のキャリアセンターに「大学の恥だから面接でLGBTであることを言わないでくれ」と言われたケースも聞きます。実際、そう言われて面接ではLGBTであることを隠す就活生もいます。私の場合は、見た目は男性で書類上の戸籍の性は女性なので、説明せざるをえない環境でした。ですが一般的には、面接でセクシュアリティについて触れない人は多いし、必ず話さなければならないことでもないでしょう。
だから「LGBTの場合はこう、発達障害の場合はこう」ではなく、「言わない人」の中にも多様性があると意識した上で、インクルーシブであることが理想ですよね。相手の属性・特性で対応や配慮を変えるのではなく、多様性がみんなにあると意識して、特性や属性ではなく本質的な能力で判断することが、公正な採用につながると考えています。
――入社後の働く環境として、企業にあるといいダイバーシティに関する制度や取り組みは、どのようなものがありますか?
藥師:
最近とてもおもしろいなと思った事例が、ある外資系企業が導入している社内制度です。社内に「LGBTアライ(理解者・支援者)のネットワーク」や「外国籍の社員」、「ワーキングペアレンツ」のような、ダイバーシティ&インクルージョンに関するテーマ別の社員のワーキングチーム、いわゆるサークルのようなものがあります。それ自体は外資系企業ではよくあることですが、この例の優れた点は、その活動が人事評価に結びつくことです。
例えば四半期のKPIを定める際に「LGBTアライチームとして、このような社内啓発イベントを実施する」「この取り組みのリーダーとして、海外のフォーラムでプレゼンをする」という目標を入れ、それが人事評価指標になるんです。また、就業時間内に会社の経費でサポートを受けた上で活動できます。会社公認で活動資金を援助する例はいくつかありますが、人事評価に結びつくことで、さらに活動しやすさが増しますよね。
「社員が社内でダイバーシティ推進に関する活動をしやすい制度が、インクルージョンの文化を社内で醸成することにつながると考えます」
藥師:
社内のダイバーシティ&インクルージョンは、制度づくりは人事主導で進める必要性がありますが、文化醸成は一人一人の社員が社内を変える取り組みが重要です。インクルーシブな社内文化は制度だけで創ることはできませんが、文化醸成を推進する個人が活躍しやすい制度を創ることで結果的に文化が醸成されていくと考えます。社員による活動をベースに役員がスーパーバイザーやアドバイザーを担い、トップダウンとボトムアップ両方からの推進がされることが理想です。その際、ワーキングチームなどで活動する社員が周囲を巻き込み活躍しやすいためにも、会社側がお金・時間・評価につなげることは本質的な取り組みだと思います。
このスキームがあることで今はまだ取り組まれていないダイバーシティのテーマが可視化しても、対応していけます。まさにインクルーシブな風土を高める制度ですよね。また、日系企業には部活文化のある企業も多く、また福利厚生のひとつとして部活活動へ活動資金を提供する企業もありますので、外資系企業だけでなく日系企業にも比較的すんなりと浸透できる取り組みではないかなと思います。
――国際的に見て日本のダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みは、どの程度進んでいるのでしょうか?
藥師:
ダイバーシティ&インクルージョンの「ダイバーシティ」にばかり特化している日本は海外と比べて遅いとよく言われます。
海外では「◯◯の人を理解しよう」という個別のダイバーシティのテーマへの理解促進から、誰もが多様であることを前提としたうえで一人ひとりの“ちがい”をどう組み合わせてチームとなるか、つまり「インクルージョン」へ文脈がシフトしていると感じます。例えば、アンコンシャスバイアスやマイクロアグレッション(意図せず相手を傷つけてしまうこと)をどう防いでいくかなど個々のあり方に重きを置いたものや、多様なチームでどのようにリーダーシップを発揮していくのかというリーダーシップ育成の文脈で取り組まれたりします。また、インターセクショナリティ(一人ひとりのもつ“ちがい”や属性は、多層的で“交差”しているという考え方)への取り組みも進んでいます。
一方、日本はまだ「LGBT」「障害」などの課題ごとの理解促進に止まりがちです。もちろん、それはとても大切です。でも、早くダイバーシティだけを語るところは脱して、その先のインクルージョンへの取り組みへ進んでいきたい。そのために企業・行政・大学・NPOらステークホルダーが議論し、好事例を共有するための産学官民連携ネットワークを創ろうと動き出しています。
一度ReBitを離れ一般企業へ就職したことのある藥師さん。その経験からの気づきや、ReBitが今後目指すことを伺いました
―― 藥師さんご自身は大学時代にReBitを立ち上げた後、一度一般企業へ就職されています。卒業時にReBitの活動を続けようとは思われなかったのですか?
藥師:
なかったですね。というのも、20代前半では「自分がロールモデルにならなくては」と強く思っていたんです。
私自身、幼少期から「自分は男の子なんじゃないか」と性別違和を抱き、周囲と違う自分は大人になれるのだろうかとも悩んでいました。でも、誰にも相談できなかった。そこで小学6年生の頃、インターネットで調べてみたら、掲示板などで「性同一性障害の人は働けない」といったマイナスな情報ばかり出てきました。それを見て「自分はこのままだと働けない。今の社会で働けないということは、生きていけない」と思ったんです。ロールモデルの不在と、キャリアの選択肢がないと思ってしまったことが、とても辛かった。だから、自身がロールモデルにならなくては、そのために一般企業へ就職しなくてはと思っていました。
「就活当時は仕事内容などではなく、とにかく男性スーツを着て自分が働ける企業であることが重要でした」
―― 藥師さんご自身は、その後ロールモデルを見つけられましたか?
藥師:
ロールモデルを見つけられたかというより、「トランスジェンダーでないと自分のロールモデルにならない」という固定概念がなくなったと思います。一人の人間に対して全面的にロールモデルを求める感覚もなくなりました。
レズビアンの先輩に「人はどう生きてもロールモデルなんだから、自由にやれ」と言われたり、トランスジェンダーの先輩に「男とか女とかである前に、人としてちゃんとしろ」と言われたことが、自分の中にあった「こうあらねばならぬ」を解消してくれました。
また、性別に関係なく「この人、すごいな!」と尊敬できる人たちに出会ったことも、変化の要因です。社会人として大切なスキルの多くは、メールの返信速度、コミュニケーションやプレゼンのスキルなど。それって、セクシュアリティの関係ないスキルですよね。
社会人になって初めてセクシュアリティ以外にも重要なことが沢山あると気がつきました。“働く”とセクシュアリティは、もちろん関係あるのですが、それだけが100%ではありません。むしろ、福利厚生や給与体制、転勤の有無や仕事内容がやりたいことと合致しているかなど、セクシュアリティに関することのみではなく働く上で重要な軸はたくさんあることに気づいたんです。
――就職したからこそ、実際に働いていく上で重要なポイントが見えてきたんですね。
藥師:
就活時には全くその辺りを考えられていなかった。ロールモデルの不在や情報の不足から「自分はキャリアを選択できる立場にいないのでは」と考えてしまっていたし、「そうではない」と言ってくれる就労支援者もいなかった。企業に入ったらセクシュアリティとはまったく違うところで勝負するのに、情報不足や自尊心の低さで視野が狭まり、将来を見据えたキャリアを考えられなかったんです。それをすごく残念に思いました。
「LGBTに限らず、多くのマイノリティに共通の課題だと思います」
藥師:
その気づきから、就活時に一緒に考えてくれる人、視野を広げてくれる人がいればと思い、キャリアカウンセラーの資格を取ってキャリア支援の活動を始めました。ちょうどそのタイミングで、後輩に引き継いでいたReBitの受注が増加して学生団体として回しきれなくなってきていたので、仕事を辞めてReBitをNPO法人にしました。
就職していなかったら“働く”ことはセクシュアリティの課題だけ考えればいいわけじゃないと気がつけず、今のReBitの活動はなかったかもしれません。逆に就活時からその視野があれば、ReBitの活動には戻らず、今も企業で働いていたかもしれない。すべてがつながって今があるので、結果的にすごくよかったと思っています。
――最後に、今後ReBitが目指していく社会を教えてください。
藥師:
ReBitはミッションに「LGBTを含め、ちがいをもった子どもたちが、ありのままで大人になれる社会」と掲げています。「ちがいをもった子どもたち」とは、つまりは「すべての子どもたち」。日本の義務教育や社会には、同一性が尊重される文化がまだまだありますが、一人ひとりがその子の個性・ユニークネスを評価され、それを“良さ”として自分で認識できるようになってほしいと思っています。
今後ますますグローバル化が進み世界を舞台に生きていく上で、自分のユニークネスを理解して表明し、個性のある多くの人とチームを組むことは、その子にとっても“豊か”だし、世界にとっても“豊か”ですよね。そういった社会を見ていきたい。
一番こだわりたいのは、「子どもが死なない社会」であること。日本の若者の死因の一位は自殺で、その最大の理由はイジメです。そんな、誰かと違うことで苦しくなる日本の現状を変えていきたい。でも、それは子どもの世界だけを変えても実現できません。その子が生きていく社会が変わらないと、「あなたのままで大人になれる」という言葉は綺麗事ですし、信じられないですよね。だから、日本の“ちがい”を受け入れる寛容性を高め、インクルーシブな社会にしたい。
なかなか一団体だけで解決していけることではないので、コレクティブインパクト(立場の異なる組織が連携して課題解決を目指すアプローチ)で取り組んでいきたいですね。ぜひこのテーマを一緒に取り組んでいただける企業・行政・大学・NPOなどの方がいたらお声がけをいただけたら嬉しいです。
「ダイバーシティ&インクルージョンは、一周回って命の話なんです」と語ってくださった藥師さん