ダイバーシティをビジネス視点で考える PINGUINC. > INTERVIEW > ダイバーシティは当たり前!働き方改革を進めるフローレンス、鍵はフラットな関係と変化を楽しむ心
INTERVIEW
2018.11.01

ダイバーシティは当たり前!働き方改革を進めるフローレンス、鍵はフラットな関係と変化を楽しむ心

訪問型病児保育に取り組み、設立から組織の規模も事業も急成長を続けているフローレンス。「働き方改革」が話題になる前から「働き方革命事業部」を立ち上げ、職場の働き方の改善・多様化にも取り組んでいます。女性のみでなく、男性職員の育休取得や時短勤務も進んでいます。なぜ、働き方改革に取り組み、働き方と人材の多様性を高めているのでしょうか? また、働き方改革と組織の成長をどのように両立しているのでしょうか?

「働き方改革」の旗振り役。社会と職場の多様性に取り組む

「子どもが熱を出すと保育園に預けられず、仕事を休まなければならない。でも、子どもはいつ熱出すかわからない」  
そんな働くママ・パパが一度は抱える悩みをサポートしている認定非営利活動法人フローレンス。2004年の設立から親子に関わる課題解決を通して社会の「働き方」と「家族の形」の多様性を高めてきました。急成長を続け、現在では訪問型病児保育や障害児保育、小規模保育や赤ちゃん縁組など多岐にわたる事業を展開しています。

中央に「ビジョン」と「ミッション」と書かれた赤い丸があり、それを取り囲むように育児に関わる社会課題のイメージが並んでいる

「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともになんでも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」をビジョンに掲げています(フローレンスwebサイトより)

フローレンスでは職員が働く環境のダイバーシティ促進にも取り組んでいます。2007年に「働き方革命事業部」を設立、積極的に在宅勤務やリモート勤務、時短勤務、育児休暇、フレックス制度ほか柔軟な働き方を後押しする制度を導入し社会の「働き方改革」の旗振り役に。男性の育休取得率は100%、代表の駒崎さん自ら取得したことも注目を集めました。

 

一方で、NPOや保育業界は残業の多さや低賃金など労働環境の問題が度々話題になります。その中で、フローレンスはどのように成長スピードを落とさずに働き方の多様性を高めているのでしょうか?

 

今回は、働き方革命事業部の大関香織さんと障害児保育事業部の森下倫朗さんのお二人に、フローレンスで働く環境と多様な働き方が実現できる理由を伺いました。

課題解決のために選択肢を増やす。フローレンスがダイバーシティである理由

「つよくてやさしい組織」を目指す。フローレンスの働き方改革

笑顔でパソコンの画面を指差す女性とその画面を見ながら笑う男性

お話を伺った大関さん(左)と森下さん(右)。終始笑いのあふれる会話でした

「できるところまでやる」では無理がきた。働き方改革のきっかけ

―― 職場のダイバーシティを語る上で、働き方の多様性というテーマは欠かせません。フローレンスは働き方改革が叫ばれる前から「働き方革命事業部」を立ち上げ、働き方の改善・多様化に取り組んでいます。きっかけは何だったのでしょうか?

大関:

フローレンスもかつては長時間労働をしている時期がありました。しかし、優秀な女性社員が家庭との両立で退職したことや、代表理事の駒崎が参加したアメリカでのリーダーシップ研修 をきっかけに「このままではいけない」と感じ 、どうしたら社員みんなが心地よく働けるかと考え、取り組みをスタートしました 。当時の様子は、駒崎の著書『働き方革命 ――あなたが今日から日本を変える方法』でも紹介しています。

―― 創業時の勢いのまま仕事一筋で回っていた職場を大きく変革するのは、難しい点もあったのでは?

大関:

最初は「定時で帰れと言われても、仕事は山積みで無理」という職員の声も多かったようです。そこでまず、駒崎自身が定時退社を始めました。また、全社員に各業務にかかった時間を計測してもらい、何にどれだけ時間をかけているのかを“見える化”し、その結果をもとに仕事の効率化を進めました。

赤いレースの服にグレーのカーディガンを着たミディアムヘアの女性が手を前に出して語っている

「代表自らが定時退社することで、社員も帰りやすい雰囲気ができました」と話す大関さん

大関:

例えば、集中すれば1時間程度でできる資料作成に4時間かけていた社員に話を聞いたところ、業務上社員から頻繁に話しかけられることで作業が中断されてしまうことがわかりました。そういった気づき から、週1回の「在宅勤務」や、イヤホンをしている時は「集中したいので話しかけないで欲しいサイン」という「ひきこもり制度」が生まれました。

―― そういった課題洗い出しや制度改善に「働き方革命事業部」を立ち上げて本格的に取り組んできたのでしょうか?

大関:

当初は、中小企業の働き方を変えることで日本の働き方を見つめ直す契機にと、働き方改革のコンサル事業を行う部署として「働き方革命事業部」が立ち上がりました。 現在は一般の企業の管理事業部にあたる部署を「働き方革命事業部」としています。 部署名には「ただのバックオフィスではなく、自分たちで新たな働き方を提案し世の中に発信していく」という意味が込められています。

従業員に優しくするためではない。働き方改革で心がけていること

―― リモートワークや在宅勤務は、効率が上がる一方で職員間のコミュニケーション量が落ちてしまう心配はないのでしょうか?

大関:

コミュニケーションを円滑に保つために、様々なシステムを導入しています。例えば、離れていても同じ情報が見られるようにクラウド環境を整備し、コミュニケーションについてはビデオチャットやチャットを活用しています。

森下:

事務局と現場(園長等)とも、チャットで頻繁にやり取りしています。もちろん、場合によってはすぐに現場に行けるようにしています。僕の担当している障害児保育園ヘレンは都内に6園あるのですが、それぞれの園が大切な場所だと思っていて、本社だけが自分のオフィスだとは思っていません。

両手を前後に広げて話す男性の横顔

「メールだと話が進まないときは、電車に飛び乗ってすぐに現場へ行っちゃいます」と話す森下さん

大関:

すぐに現場へ行くためにも、リモートで作業できる環境と制度は業務の要です。

森下:

このワンセット(PC、Wi-Fi、スマートフォン)があれば、電車の中でも資料を見返したり作成したりできる。だから、23区全てがオフィスになるんです。リモートで働ける環境があるからこそ、現場に足を運んでコミュニケーションを取れるんですよ。

―― 保育という対人の業界ではどうしても効率化できないケースもあると思います。働き方改革を進める上で、気をつけていることはありますか?

森下:

確かに、現場と事務局では休みの取りやすさや在宅勤務のしやすさに違いがあります。そのため、どこまで事務局が改革を進め、それをどう現場に伝えるかは気をつけています。でも、現場においても「男性職員も育休を取ろう」など、働き方への価値観は同じです。事務局が率先して実践し、現場でもできる範囲でやっていこうとしています。また、事務局としては現場へ必要に応じて人を補充するなど、「休んでいいんだよ」という環境をできるだけ作っています。

大関:

もう1つ大切にしているのは、「つよくてやさしい組織」であることです。働き方改革は単に従業員に「優しくする」ことが目的ではありません。「やさしい」だけでなく、新たなことに挑戦しながら事業を進めていく「つよさ」が伴うよう意識しています。「しなやか」という言葉のイメージが近いと思います。

「Team 私たちの組織」「つよくてやさしい組織」とトップに書いてあり、その下に「志の大地に多様性がしげる-森のように」「たのしんで真剣勝負-子どものように」「試行錯誤を全速力で-開拓者のように」と並んでいる

webサイトの理念の紹介に掲げられているチームの在り方

大関:

先ほど お話しした「ひきこもり制度」や「在宅勤務制度」の導入も 、その方が集中できたり効率が上がったりと、より良い仕事ができることが目的でした。ビジョンを達成するために、その方がいいからやっています。

「変化を楽しむ」「理念への共感」。成長とダイバーシティを支える人材

フローレンスの事業は、既存概念にとらわれない柔軟性が必要

―― 働き方改革にしても、成長していく事業にしても、非常に柔軟な組織だなと感じます。

森下:

フローレンスは事業そのものが法律や制度を乗り越えていかなくてはならないものが多いです。そのため、常に柔軟でないと新しい発想が生まれず前に進めません。

あごに左手をあてて真剣な眼差しで語る男性

「既存の概念に捉われず、フレキシブルでないといけないんです」と語る森下さん

森下:

例えば、障害児保育園ヘレンは日本中どこを探しても誰もやってこなかった事業です。誰もできないと思われていたんですね。でも、僕たちには本当にできないのだろうかという疑問がありました。そんな時に「フローレンスに連絡すれば、何か知っているのではないか」と重い障害のある子のお母さんから問い合わせがありました。それが2013年です。

 

お母さんと一緒に重い障害のある子が 平日5日間、毎日ひとり で長時間通える施設を探して回ったのですが、23区内には1ヶ所も重症心身障害児(重度の肢体不自由と知的障害が重複している子ども) が通える保育園がありませんでした。900万人も住む大都市の23区でたった一人の子どもも預かれないって、おかしいですよね。だったら、僕たちがやるべきではないかと障害児保育園ヘレン開設に取り組みました。

手前に話している男性がおり、その奥に話を聴きながら正面を向いている女性がいる

障害児保育園を探したお母さんは、神奈川で唯一見つけた保育園の近くに引っ越したそう。

森下:

障害児保育園ヘレンは通常の認可保育所とは異なる制度で動いています。そのため、受けられる補助 に様々な制限があります。開設費用として4,000〜5,000万円かかるのですが、補助は1円も出ません。だから、ものすごく時間と労力を使います。これでは障害児保育の課題の解決に長い時間がかかってしまう。そこで生まれたのが障害児訪問型保育アニーです。

 

アニーは訪問型保育なので、建物や場所の制約がありません。なので、ローコストに展開できます。ヘレンがゆっくり増えていく間に、ヘレンではカバーできない地域をアニーがカバーしています。

障害児の母親の常勤雇用率5%の円グラフが左に、ヘレン・アニーを利用する障害児の母親の常勤雇用率88%の円グラフが右にある

障害児の母親の常勤雇用率は全国で見ると5%にしか満たないところ、ヘレン・アニーを利用する障害児の母親の場合88%にもなります。

―― 状況に応じてアプローチ方法も柔軟に変えていく現場だからこそ、働き方も含め組織全体が柔軟なんですね。そんな環境で、一緒に働く人材に求めることは何でしょうか?

森下:

障害児保育事業では、とにかく「変化を楽しめる人」であることを大事にしています。フローレンスの事業は様々な行政の制度を使っていますが、その制度の内容も自治体の解釈も流動的です。そこで、制度や環境が変わった時にすぐに切り替えられる、変化への柔軟さが欠かせません。「せっかく決めたのに、なんで変わるんだ!」というマインドでは本人も周囲もしんどいし、力も発揮できないのではないかと思います。

大関:

また、柔軟さも変化も、すべてはビジョンの実現のために必要だという認識が共通しています。なので「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」というビジョンにどれだけ共感しているかを重視します。

役職や経験は関係ない。働きやすさと成長が両立される理由

インターン生が事業計画?!チャンスにあふれている環境

―― お二人は転職してフローレンスに参加されたと伺いました。フローレンスで働きだして、他社との違いに驚いたことはありますか?

森下:

少なからず自分は何事にも当事者意識を持って取り組むタイプだと思っていたのですが、フローレンスにはそんな人がゴロゴロいて、「このままじゃダメだ!」といい刺激になっています。役職に関係なく、チャンスにもあふれています。

 

特に驚いたのが、インターンシップで来ている大学生です。このインターン生が、ものすごく優秀な子たちが集まってくるんです。しかも、フローレンスではそういった子にどんどん責任ある仕事や役割を振っていきます。事業計画の作成や収支の計算をしているんですよ、大学生が。事業を立ち上げる時に コンサル会社に入っていただく こともあるのですが、その際もインターン生がやり取りしします。

少しうつむきながら笑って話す男性

「一緒に行った打ち合わせ先の方が、僕の方が部下だと思うこともあるくらいしっかりした子たち」とインターン生の優秀さを語る森下さん

―― インターン生が! 積極的に自ら動ける人でないと、難しいですよね。採用ではどのように見極めていますか?

大関:

面接時に、自ら動き、周囲を巻き込んで何かをした経験を聞いています。小さなことでも、自ら動いた経験がある人は何かしら話せる。指示された仕事だけしてきた人は、この質問に具体的に答えられないことが多いです。

―― 重要な仕事を役職や経験に関係なく任せる上で気をつけていることはありますか?

森下:

失敗を恐れない姿勢と、その人の強みと内発的動機が生まれるポイントを把握することです。そして、徹底的に信じて任せる。ただ、任せっきりで放置するのではなく、上司もしくは仲間として、そこに「存在」していることを意識しました。

 

先ほどのインターン生は、当初は財務や面接を任せる予定はなかったんですよ。ただ、人手がなく、何より、本人に情熱があり、それまでの業務でどんな状況でも果敢にチャレンジしていたので、絶対大丈夫だと思いました。学生だからと遠慮しがちですが、やる気がある人には任せればできてしまうものなんです。

話しやすいフラットな関係性が要

―― 「実力があればチャンスが来る」というと、みんながライバルでギスギスした雰囲気になってしまうこともありそうですが、フローレンスは職員の仲が良くフラットな印象です。

大関:

「何でも言って大丈夫」という、安心感はありますね。仕事のことに限らず、趣味の話もしやすい環境です。

森下:

職員をあだ名で呼び合うなど、職員同士の距離は近いです。代表理事の駒崎のことも、みんな「駒さん」と呼んでいます。肩書きで呼ぶ人はいません。

大関:

役職だけでなく男女の垣根もありません。フローレンスに入って驚いたのですが、男性職員も普通に時短や育休を取っています。この間は、システム担当の男性職員がすごく真剣な顔をして集まっているので何の話をしているのかと思ったら、「最近、夕飯の献立がネタ切れ」って。

右手を口元にあて、目を細めながら笑う女性

「すごく真剣な顔をしているから何かと思ったら、夕食の話だったんです」と楽しそうに話す大関さん

大関:

また、部活動もあります。ランニングやバンド、私は読書会に入っています。話していることはくだらない話だったりするんですけど(笑)。それで、部署を超えた新たな交流が生まれています。多趣味な人が多く、副業も許可されています。私も副業でキャリアカウンセラーの活動をしています。

―― お話を伺っていると、同じ24時間とは思えない活動量です。

森下:

濃密ですよ。もう、8時間働いたら残業なんてできないくらいクッタクタ(笑)。それだけ、働いている時間は全神経を尖らせて集中しています。だからこそ、働きながら趣味や副業にも取り組めるし、事業の成長スピードも落ちないのだと思います。

ダイバーシティは当たり前。ダイバーシティを目的にはしていない

―― 年齢もキャリアも様々な人が集まるダイバーシティな環境で働く上で、お二人が意識していることはありますか?

森下:

もう、多様であることが当たり前として染み付いているので、改めて聞かれると困っちゃいますね。

口元に手をあてて左を向く女性が左手におり、右手には女性を少し覗き込んで顔を見合わせる男性がいる

改めてダイバーシティな環境で意識することを聞かれ、顔を見合わせて「うーん…」と考え込むお二人

大関:

確かに、入った時は「いろんな人がいるな」という印象はありました。全職員が保育業界やNPO業界から転職しているわけではなく、キャリアも専門性もバラバラ。でも、みんなビジョンに共感しているので、ダイバーシティへの意識がない人はいないですね。

森下:

ビジョンにさえ共感していれば、あとはなんでもありです。働き方改革の取り組みも、ダイバーシティを高めようと取り組んだのではなく、理念のためにみんなが心地よく動ける環境を作った結果なんですよ。そこに、後から「ダイバーシティ」や「働き方改革」という名前がついてきた。むしろ、時代がやっと追いついて来たのかもしれません。

ダイバーシティな環境は、ひとりひとりが生き生き輝く。2人が目指す社会とは?

―― 最後に、フローレンスがビジョンに掲げる社会は、お二人にとってどんな社会か教えてください。

大関:

私は「その人が“らしく”生きる」というモットーがあります。特に、性別が理由で目指す生き方が阻まれる女性をこれまでたくさん目にして来ました。そんな状況を変えたいと思っていた時にフローレンスに出会い、まさに女性がぶつかる壁を解決していると感じて、入社しました。子育てをしていてもしていなくても、みんながその人らしくあれる社会を作りたいです。

森下:

全ての人が、その人の内発的動機から行動を起こして、瞬間瞬間をしっかり楽しめる。僕は、これがフローレンスのビジョンが導く社会だと思っています。趣味でも、仕事でも何でもいい。誰かに何か言われてではなく、自分が本当にしたいのかどうかが重要だと思うんです。子育てをしたいかしたくないか、子どもを保育園に預けたいか預けたくないか。そういった選択を全ての人が自分の意志でできる。僕らは、そのための選択肢を1つでも増やし、その当事者を応援しながら、活動 を通して自分たちも楽しんでいきます。

中央に「Florence」とある赤いハートが描かれた壁の前で両手を広げて笑う男性と女性

左:森下さん、右:大関さん

SHARE
RELATED
MORE
RECOMMEND