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INTERVIEW
2020.09.16

難病の有無に関係なく魅力的だった。ユニオンゲートグループが難病のある人を雇用した理由

1992年創業のアパレルブランド株式会社ユニオンゲートグループ。2020年1月に、ゼネラルパートナーズが運営する難病専門の就労移行支援施設「ベネファイ」の利用者で難病を抱える方を1名採用しました。難病を抱える方の多くは、身体障害者手帳などの要件には該当せず、障害者手帳を取得することがとても困難です。実際に難病患者さんの手帳取得率は約28%(※)と低く、障害者雇用枠のような企業の雇用義務もないため、難病の方の雇用が進んでいない現状があります。そんな中、ユニオンゲートグループは、どのような経緯で採用することになったのか、社内への共有で気をつけた点や実際の就労で工夫していることを、人事総務部の伊藤直子さんに伺いました。
※参考:平成30年度東京都福祉保健基礎調査「障害者の生活実態」報告書

障害者雇用を検討する中で難病患者のAさんに出会い、採用を検討するように

1992年創業の株式会社ユニオンゲートグループ。ミリタリー由来のナイロン素材を使ったバッグなどが揃う『BRIEFING』、革製品を中心にラインナップした『FARO』の2つのブランドを展開するアパレルブランドです。ユニオンゲートグループでは、2020年1月に難病専門の就労移行支援施設「ベネファイ」の利用者で、免疫系の難病があるAさんを採用しました。

 

難病患者であっても、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得することは可能です。しかし、身体障害の基準にあてはまるほど障害が重くない方は、身体障害者手帳の要件には該当せず、手帳を取得することができません。実際に難病患者さんの手帳取得率は約28%と低く、障害者雇用枠のような企業の雇用義務がないため、難病の方の雇用が進んでいない現状があります。Aさんも同様に障害者手帳の取得が難しく、さらに学生時代に発症して就職活動ができる状況でなかったため就労経験がありませんでした。

 

しかし、彼女の採用を決めたユニオンゲートグループ人事総務部の伊藤直子さんは「彼女と出会ったとき、すごくいいな、ぜひ採用したいなと感じた」と話します。どのようなきっかけでAさんを採用しようと考えたのか、また採用にあたって気をつけたことや工夫したことを伊藤さんに伺いました。

ユニオンゲートグループのオフィスエントランスに立つ女性

お話しいただいた伊藤さん

経験に基づいた情報とアドバイスを求め就労移行支援事業所を訪問

――最初はゼネラルパートナーズが運営する就労移行支援事業所に興味を持って、ご来所されたんですよね。

伊藤:

はい。従業員数が拡大したのを受けて、当社として初めて障害者雇用をしようと調べている中で、ゼネラルパートナーズの就労移行支援事業所のことを知りました。私自身もそれまで障害のある方と一緒に働いたり、マネジメントしたりしたことがなかったので、まずは障害の特徴や就業において配慮すべきことを教えていただこうと訪問しました。

 

ネットや書籍でも障害の特徴や必要な配慮などの概要は分かります。でも、やはり普段から一緒に仕事をしている方の体験談は全然違うと思うんです。実際の生活の様子、どんなタイミングで話しかけるのがいいのか、お薬を飲んでいないとどのような影響があるのか…そういった基本のところを、実際に障害がある方と関わってらっしゃる方から聞きたいと思っていました。

 

そして、昨年夏から障害者を1人採用しました。正直、「私たちに心を許してくれるかな…」という不安もありました。そこで、どうしたらその方が安心できる環境を作れるのか、ゼネラルパートナーズの支援員さんにアドバイスを受けて少しずつ受け入れ側もどのように関わることが、お互いによいペースで仕事ができるのかという体制を整えていきました。

 

就労移行支援事業所には基本的な知識からスタッフの紹介、雇用にあたって配慮が必要なことなど、1つ1つ経験に基づいた生の声でアドバイスやサポートをいただきました。

自身の難病を受け入れて前向きに話す正々堂々とした姿に魅力を感じた

――障害者雇用で採用した方に続き、なぜ難病のAさんを採用することになったのですか?

 

伊藤:

2人目の障害者雇用を検討し、就労移行支援事業のほうにどなたかご紹介いただけないかと伺った際に「利用者さんの発表会があるからいらっしゃいませんか?」とご案内いただいたんです。利用者さんがこれまでやってきたことや自身の病気について発表する場で、ベネファイの利用者であるAさんにもそのときに出会いました。

 

そのときのAさんの姿がすごく印象的で、発表会のあとでスタッフさんに「印象的な方はいましたか?」と聞かれて迷わずAさんの名前を挙げました。「彼女は障害者手帳がなく、法定雇用率に反映される障害者雇用にはあたらないですが、大丈夫ですか?」と確認されましたが、それでもAさんがいい、もっと彼女のことを知りたいと思ったんです。

――どんなところが印象的だったのでしょうか?

伊藤:

すごくしっかりしているなというのが第一印象。とても正々堂々と話していて、20代前半で社会人経験はまったくないことに驚くほどでした。そして、自身の病気についても前向きに捉え、「社会人になったらぜひ頑張りたい」とどんなことにでもチャレンジしていこうという精神と主体性がすごくいいなと感じました。

 

彼女がいてくれたらすごくいい仕事ができるのではないか、組織の中で活かせるポジションがあるのではないかと思ったし、彼女なら当社が掲げる「5つの行動指針」も全うできるんじゃないかと感じたんです。

1顧客(カスタマー)、2伝統(ブランド)、3革新(イノベーション)、4効率(スピード)、5協調(シナジー)

ユニオンゲートグループが掲げる「5つの行動指針」

――「病気について前向きに捉えている」とはどのようなことから感じたのですか?

 

伊藤:

Aさんは大学時代に発症し、杖がないと歩けない状態にまでなってしまったそうです。疾病により体力が落ちたり体調が崩れたりしやすくなってしまったことで、就職活動ができる状態ではありませんでした。その話を聞いたとき、私だったらかなりへこんで、しばらくは何もする気が起きないんじゃないかと思いました。

 

でも彼女からはへこんだり後ろ向きになったりという姿勢を感じなかったんです。杖をつきながら少しずつリハビリを重ね、発表のときには杖がないと歩けなかったとは思えないくらいでした。

 

ベネファイに通所しだした当初は体力が追いつかず熱が出て苦労した時期もあったそうですが、スタッフさんが「熱が出ているから今日は帰る?」と聞くと「大丈夫です」と言って一生懸命に就労研修を受けていたと伺いました。1年間ベネファイに通い続け、確実にPCスキルが身につき、自己理解も深めているようでした。

 

そうやってリハビリや研修に取り組めるのは、きっと「ここで負けたらダメだ」「這いつくばっても頑張る」という気概があったからこそだと思います。病気をマイナスに受け取るのではなく、起きたこととして受け入れ、その上で前向きに進むその姿勢が魅力的でした。

「曖昧で分からない」を無くせば、難病の有無よりその人の可能性が見えてくる

一般募集もかけて面接を実施、会社として納得して採用に

――その後、どのように採用に至ったのでしょうか?

 

伊藤:

まずは彼女と話す時間を作れないかと相談し、事務所見学に来てもらうことになりました。彼女に当社について知ってもらうという目的もありました。

 

実は、アパレルはオフィスや社員の服装などおしゃれに見えるので、ひょっとしたら怖気づいてしまうのでは…と不安だったのですが、心配とは反対にAさんはすごく楽しそうな職場だと言ってくれました。ここで自分が働く姿が想像できるか聞いてみたところ、少しビクビクしながらも「はい」と答えてくれて。その様子が、新卒の初々しさもあっていいなと思いました。

 

一方で問題点もありました。当社では新卒は店舗スタッフからという仕組みで、Aさんにも最初は店舗スタッフの入り口しか用意できなかったんです。でも、Aさんはデスクワークを希望していたし、彼女の体力を考えると、私も店舗より本社勤務の方がいいだろうと思っていました。

 

だからといって最初から本社業務で採用すると、例外になってしまいます。どうすれば会社全体が納得し、彼女を欲しいと言ってくれるか。どうしたら彼女にデスクワークとして当社へ入る入り口を作ることができるのか。しばらく悩んでいました。

 

そんな折に、たまたま営業アシスタントの枠が空いたんです。そこで、ぜひどうかと提案しました。

黒いソファーに座って話す女性

伊藤さん「オフィスワークは求人が少なく、人気も高い職種なので、偶然かつ絶好のタイミングでした」

――難病を持つ方を採用したいという提案には、社内からの軋轢もあったのではないでしょうか。社内の納得はどのように得ましたか?

伊藤:

Aさん以外にも一般募集をかけ、面接を行いました。健常者の方も含めて面接をし、それでも彼女が勝負できるなら、会社としては絶対にイエスと言ってくれると考えてのことです。また、Aさんにチャレンジングな経験をしてもらいたいという意図もありました。

 

事務職は採用求人の中でも人気があるのに求人が少ない職種なので、複数の応募がありました。それでも、1次面接・2次面接と行って、最終的には面接官が「Aさんがいい」と選んでくれたんです。

 

面接で評価されたポイントは、まず柔軟性があること。当社は今、急速に成長していて変化が激しい環境です。そのスピードにも、挑戦意欲の強い彼女なら対応できるのではないかという意見が挙がりました。そして何より、彼女の自主性が評価されました。発表会で私が感じたように、面接官も彼女の自主的に分からないことを学ぼうとする姿勢が、当社の行動基準に合致すると伝わった結果です。

 

一般募集と同じ面接を通して選ばれたということは、難病の有無に関わらず彼女にそれだけの素養があったということ。彼女自身が就労移行支援事業所で約1年学んだことを、しっかり面接でアピールできたのだと思います。

できること・できないことを具体的に落としこんで共有

――実際に仕事を始めるにあたって、気をつけたことや工夫したことはありますか?

伊藤:

どんなときに症状が出やすいのか、疲れやすい場面やできないことを細かく確認しました。そして、できること・できないこと、会社が用意すべき環境や排除すべきことを詳細に落とし込んで言葉にし、周囲にも共有しました。

 

具体的には、実際に荷物を持ってどのぐらいの重さなら運んで問題ないかの確認などもしました。話しているだけでは分からないこともあるため、実際にやってもらって理解することで安心につながりました。

 

「難病」という言葉だけ聞くと、強いイメージを醸し出してしまいますし、どんな配慮が必要なのかも曖昧ですよね。でも、例えばAさんの場合は、難病の弊害である「疲れやすさ」の原因として暑さ・寒さ、重労働などがあります。ですが反対に言えば、そこだけ注意すれば他のことはできるってことですよね。ちゃんと噛み砕いて具体的に何が必要なのか分かれば、むしろ「大丈夫だ」という根拠が作れるのではないかと思います。

納期とは、守ことは当たり前。私は、どんな状況でも納期を守る。一定のクオリティの成果を出す。

Aさんがベネファイ在籍時に制作したスライドの1枚

――採用から半年経って、現在はどのような様子ですか?

伊藤:

普段の勤務で、「調子が悪そうだな」という心配はないですね。また彼女のほうから、難しいことや考慮すべきことはしっかり伝えてくれるので、できることを調整しています。

 

最近では、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言発令中の在宅勤務から、解除後に徐々に段階を踏んで出社勤務に戻していった出来事が挙げられます。

 

緊急事態宣言発令中は全社在宅勤務だったのですが、宣言解除後、出社勤務に戻す際に「在宅では座っている時間が長くて筋力が落ちてしまっていて、いきなり毎日出社だとすぐに疲れが出てしまうので難しい」と言ってくれたんです。そこで、最初は週4在宅・週1出社で、翌週は週2出社で…と傾斜をつけて、徐々に出社スタイルに慣れるようにしていきました。彼女自身も段階を踏むことでスムーズに戻ってこられますし、周囲にとってもいきなり出社にするよりも安心だったと思います。

 

これもある意味リハビリですよね。あらかじめ病気の特徴やできること・できないことを明確にしていたこと、彼女自身がしっかり伝えてくれること、そして彼女の過去の経験から、傾斜をつけて少しずつやれば大丈夫だという安心感・信頼がありましたね。

 

最近は仕事だけでなく、当社ブランドの商品を少しずつ使って楽しんでくれているようです。当社では入社時に1人メンターがつくのですが、Aさんには店舗で店長をしていた社員をマッチングしました。彼女は事務仕事が得意なので、さらに商品の魅力や当社ブランドの特徴や良さを知ってもらえたら、単に仕事をするのではなく、アパレル業界で当社ブランドに携わる楽しみを見つけてくれるのではないかと狙っての人選です。その影響が出ているようで嬉しいですね。

難病の有無に関係なく一人ひとりと向き合う「テーラーメイドな関わり方」を

――お話を伺っていて、とても細かく一人ひとりと向き合って対応されているなと驚きました。

伊藤:

「テーラーメイドな関わり方」というのですが、彼女に特別対応しているわけではなく、社員一人ひとりにそれぞれの関わり方を心がけているんですよ。

 

障害や病気の有無に関わらず、人はみんな一人ひとり考え方やライフスタイルが違いますよね。仕事や会社に対しての思いや、考えのレベル感も異なります。だから常に「この部署にはこう」「こういうタイプの人にはこの伝え方」といった固定概念を捨てるように気をつけています。もしそういった形式ばった考えがあると、個別対応ができなくなってしまいます。

ブリエフィンから出ている黒いリュックを背負った人の後ろ姿とテーブルの上に置かれたカバン写真

ユニオンゲートグループが展開するブランド「BRIEFING」と「FARO」

――「テーラーメイドな関わり方」を心がけるようになったきっかけは何かありますか?

伊藤:

前職の会社で初めてマネジメントのポジションに就いた時に、同時期に複数人の社員が辞めてしまう大失敗をしたことがあるんです。その時、自分の関わり方に問題があったのではないかと考えるようになり、コーチングの専門的な知識を学んだんです。そしたら、相手に寄り添って普通にやっていけばいいんだとストンと腑に落ちました。

 

以前は「あれを指示してこれを指示して…」と自分の型通りにはめようという意識が強くありました。マネージャーという仕事に「やらなくちゃ」と重荷を感じていたんですね。でも、自分の枠を超えて、どうしたら相手が思っていることを達成させてあげられるかを会話の中で探っていくようになってから、自分のスタイルで力を抜いてできるようになっていきました。

 

最初に障害者雇用で採用した方も話していると「こういう仕事をしたいんだな」と節々から伝わってくるんですよ。何が居心地よかったのか、何をしたいのか、どうしたらそれを実現できるのか…そういったことを一人ひとり寄り添って探っていく人事の仕事が、今はものすごく楽しいです。

――最後に、障害者や難病患者の雇用を考えている企業の方へ、メッセージをお願いします。

伊藤:

まずは企業の一人事が、怖がらず難病や障害について知っていく努力をしてみることだと思います。ちゃんと知れば、ちょっとした工夫や配慮で普通に仕事ができるんだと分かり、安心できます。あとはいかに社内で調整するかです。そして、障害者雇用にしても難病の方の採用にしても義務ではなく、その機会をチャンスと捉えて欲しいです。

 

私は、Aさんとの出会いに、非常に意義と価値を感じました。一般の新卒で彼女のようなしっかりしたレベルで事務仕事を知っている人材はなかなか見つけられません。それは彼女がベネファイでしっかりトレーニングを受けていたからです。そういった人材が、就労移行支援事業所には眠っていること、難病者や障害者の中にもしっかり生きていこうと頑張っている人がいることを、企業人事がもっと知っていく必要があると思います。そうしたら、いろんな可能性が見えてくるのではないでしょうか。

 

私個人としては、障害や難病という言葉をなくしてもいいと思っています。そういうレッテルを貼ってしまうのが、もったいないです。もちろん、健康上での配慮は必要です。でも、配慮と特別扱いは違います。健常者であっても疲れやすい人には自然と気にかけて声をかけますよね。それと同じことだと捉えています。お互いの思いやりですよね。

ラス張りでオフィスが見える会議室で、黒いソファに座って話す女性

お話いただいた伊藤さん

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